記録と日常

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関戸地球大学院「対話型鑑賞の功罪」

2021年11月19日18時~

関戸地球大学院 第2講「対話型鑑賞の功罪」というZoomのウェビナーを視聴した。

当日の資料を公開してくれている講師の森功次先生。森先生の論文はresearchmapでいろいろ公開されているのでリンクをはっておく(備忘)

 

そもそも…ビジネス界隈で、ビジネスエリートは美術作品を買う。美術作品を買うには、美術の教養をある程度学ばなければ買うことはできない。ビジネスのスモールトークとしても美術は適している。そこで得られたアート的思考方法をビジネスに活かしている…というようなことが言われだして久しい。

 

 

日本でブームが始まったのはこの本が出てからだったように思う。

ガチガチのビジネス脳(効率、経済、能力最優先主義)からしたら芸術のもつ感性、感覚、理屈なし、正解なしで考える、決める方法は(そればっかりじゃないんだけどねぇ)目が見開かれる発見があるんだろうなぁ。どちらかというとアートよりの知人がこの本を読んで、私の思ってることは間違いじゃなかったんだ、これからの時代はアート的にやっていいんだ!むしろそうしていかないとダメ(正確にはこんな言い方ではなかったけど)と感想を述べていたのが印象的だった。自分は自分で、一般社会はビジネス一辺倒、人間の在り方だとかは二の次なんだなということを、この知人の感想で思い知ったのだ。今更なんだが、こちらは、金儲けもわかるが、人間の在り方とか生とか美しいことととか、そんなことばっかり考えてたよ!ビジネスってそんなこと考えない世界だったんだ・・・知らなかったというお花畑の住人です。そんなわけだから、いつの間にか急にビジネスがこっちによってきちゃったけど???何?みたいな複雑な気持ちになるのは言うまでもありません。まぁ、私はアーティストじゃないけど。

 

対話型鑑賞は、自分のようにボランティアで、小学生に対して対話型鑑賞をやってる教育プログラムがある。自分なんかはファシリテート技術の未熟さで上手く1枚の絵の世界の深いところには全然連れていけてない。申し訳なく思いつつも、最低限、絵をじっくり見ること、言葉で表現できたことを励まし、子どもたちに良い時間をすごしてもらえていれば第一の目標は達成できていると…と取り組んでいる。

 

しかし、ビジネス界隈で対話型鑑賞の手法をビジネスに活かすというようなプログラムになると2日間で10万だとか15万だとか参加費がかかるって記事を目にしたときには、なんだよ、金儲けかよ、てか、そんな2日ばかり研修してアートがわかるようになるの?と懐疑的な気持ち半分、そんな高いお金払う人の気が知れない、アートって趣味じゃん?というような気持ち半分。要するにやっかみに近いモヤモヤ。

 

それに対して森先生は美術手帖の記事やこの講演で、すっきり一つの問いを提示してくれたと思う。

 

きわめて重要な指摘だった。美術館が、所蔵作品を利用してビジネスパーソン向けに高額なプログラムを提供することの是非をどう考えるか。取れるところからお金を取れっていう話ではあるのだが、ビジネスエリートの養成は美術館という公共施設の仕事なのか。ちなみに私が参加している小学生向けの対話型鑑賞のプログラムも美術館が行っている。

 

p.70~「美術作品の教材化の功罪」

 

講演で強調されていたが、対話型鑑賞はダメとは全然言ってなくて、むしろどんどんやったほうがいいという意見。ただし、先入観なしにじっくり絵を見ることから得られる経験と、背景知識があるからこそわかる作品の意義とか価値を知ることは別個のものだということを知っておく必要があると。美的鑑賞レベル1~2とかの初心者には前者が美術を見る導入として適であろうし、絵を見慣れた人も背景知識に引きずられずにじっくり見てディスカッションして、新たな知見を得るということはある(というか美術史ってそういう学問だよねとは思った)。

 

今回の講演は、「対話型鑑賞」という事象について、モヤモヤする部分について、メリット、デメリット、関わっている対象とその対象に対する影響など細かく噛み砕いて解き明かしてくれるものだった。これが、もしや「分析美学」?と素人な自分はワクワクして面白く拝聴しました。