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英日で読む『クワイ河収容所』


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今年の7月から、アーネスト・ゴードン著、斎藤和明訳『クワイ河収容所』を英語と日本語で読む、オンライン読書会に参加しています。読書会を主催されているのは、英日通訳者で、訳者の斎藤和明先生の門下だった冠木友紀子先生

 

英文を読んで、斎藤和明先生の和訳と比べ、名訳すぎて英語のどこを訳したの?!というような箇所を見て、どうしてこういう訳をしたのか、著者ゴードン氏のベースとなるキリスト教について解説をしてもらう、参加者同士、気になった場所のシェアリングをするといった会になっています。

 

クワイ河」というと、映画『戦場にかける橋』の主題歌『クワイ河マーチ』を思い出す方が多いと思うけれど、今は知らない人も多いかもしれない。私も映画の名前は知れど、見たことはありません。この『クワイ河収容所』は、映画『戦場にかける橋』を見たアーネスト・ゴードン牧師が、クワイ河で俘虜収容所で自分が体験したこととだいぶ違う演出に違和感を覚え、本当のクワイ河収容所を後世に伝えたいとの思いで書かれた著書。

 

日本軍によってクワイ河収容所に収監されていた戦争俘虜たちは、泰緬鉄道建設とクワイ河に橋を架ける過酷な強制労働をさせられていたました。食事も満足でなく食べるものも1日おにぎり2個とか。熱帯地方のことで衛生状態も悪く、次々とマラリア赤痢と病にかかり、それは著者も例外ではありません。追い打ちをかけたのがジフテリア罹患。死の寸前までいったところで、仲間の友愛精神にふれます。そもそも宗教には懐疑的だった著者でしたが、次第に仲間のもたらす慈悲や友愛の振る舞いに感化され、死の淵から生の世界へ蘇り、やがては仲間とキリスト教の勉強会を開くに至ります。キリスト教の教えが俘虜たちの間に広まるにつれ、殺伐として盗みなども横行し他人は顧みなかったのが、仲間を思いやり互いに人として尊敬しあうようになります。

 

神を信じる。

 

この一念が過酷な環境で、生への気持ちを奮い立たせる力となる、人のために生きることが、自らの生にもつながる、とそんなことが込められた本なのかなと思います。

 

翻って、今の日本の置かれた状況たるや・・・

 

 

それはさておき、斎藤先生の翻訳は、めちゃめちゃ丁寧なのです。

英文に書かれていないことまで、補って補ってイギリスやキリスト教の背景知識のない日本人にもわかるように丁寧にかみ砕いて訳されているため、翻訳なのか?という議論にもなりそうだけど、著者ご本人とやり取りがあっての訳なのでアリなのでしょう。(冠木先生の解説がさらに詳しいから背景までよくわかる)

逆にゴードン氏の英文は実にシンプル。簡潔。こちらはこちらですごくわかりやすいのです。一文が長くて係り受けわかんなーい、って日本人泣かせの英文じゃないんです。

この2つを比べると、二卵性双生児なのか、と思う。同じなんだけど、なんかちがーう。

 

私は、この作品に限らず、英文を読んだときの雰囲気と日本語翻訳を読んだ時の雰囲気が違うのが、違和感あって、英語の雰囲気をそのまま日本語にできないのかなぁ・・・ってずーっと思っていたんだけど、今回の読書会で、オリジナルから発して、日本語になったものは別のものになる、という現象には一応の納得をしました。それくらい斎藤和明先生の日本語訳には圧倒的な説得力があり、価値がありました。

 

全12章中6章まで終わり。こんなに長い時間かけて1つの作品をコツコツ読むのは初めて。やりがいがあり、読んでて楽しいとかワクワクドキドキしてどんどん読み進められる本ではないから時々つらくはなるのだけど、達成感もあり読書会があると元気になります。

 

 

クワイ河収容所 (ちくま学芸文庫)

クワイ河収容所 (ちくま学芸文庫)